きらりきらりと輝いている。
何が輝いているのか? 無論私がである。
私が立つこの庭も、私が立っているのだから当然輝いている。私の端麗な祖母が愛した夾竹桃も、可憐な母が好んだ野茉莉も、柔和な祖父が慈しんだ七竈も、厳格な父が愛でた蘭(アララギ)も、壮美で優艶で聡明な私が慈愛を注いでやまないその他諸々の草花達も、それはそれは輝いている。
私の高貴な眼差しにも劣らぬ、荘厳でありながらも穏やかな午後の陽射しが、彼等を一層煌かせている。
何と素晴らしい一時であろう。
私が彼等凡ての荘厳さを祝福しているように、彼等凡ても私の壮麗さを祝福してくれている。
馨の良い風が私の黄金色した髪を梳き、柔らかな陽が私の滑らかな頬を撫でる。私は両腕を広げ、微笑む。
さあ、凡ての賛美されたる者達よ、私を照らすが良い。存分に照らすが良い。そなた等の輝きを受け、色褪せずにいられるのは恐らく私だけである。父も母も祖父母も美しくはあったが、神々しさには欠けていた。私の此れは最早神の領域であろう。神の血を、私は美しさで犯しているのだ。
私は眼瞼を閉じる。
心地良さに暫時酔う。
私に穢された神の血は毒の如き美酒。私の葩に似た唇が快楽を帯びて僅かに顫える。
「嘻……」
くらくらと傾ぐ脳髄で芳香が一筋、螺旋を描く。
執事頭であるエロフェーイが淹れるアッサムティの芳香に魂を傾け、其の旋律を聴く。馨が濃厚になり、ミルクが零されたのだと知れる。
良い。酔っている。茶葉が、ミルクが、私に酔っている。私の放つ貴顕な気は白湯すらも蕩かせてしまう。
私は踵を軸に、美しく華麗に、宛ら月夜に舞う白薔薇のようにターンした。
エロフェーイが出しゃばらぬ微笑を私に向ける。
「午後のお茶に致しましょう、旦那様」
私はウッドデッキに据えた卓に着き、エロフェーイのティを受ける。
「良い馨だ、エロフェーイ。いつもながら私に相応しい腕前だね」
「恭悦に御座います、旦那様」
ティを一口含み、舌で愛撫する。私の愛撫にティが身悶える。私の華美な舌はティさえも顫えさせる。つくづくも私とは罪であると思う。
「旦那様、今日のお茶菓子はこのエロフェーイが旦那様の為に精魂込めてお焼きしております。どうぞご賞味下さいませ」
「ああ、それは楽しみだね。どれ、頂くとしよう」
卓の上にはサンドウィッチやビスケット、ジャム等が華麗に並べられている。取分けスコーンとマフィンが王の如くに鎮座ましましている。実に私に似つかわしい。
さて、スコーンにするかマフィンにするか、それが問題だ。
***************** 別にどっちでもええ。エロフェーイて言いたかっただけ。
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