遠。81-90


81:イメージチェンジ
タイトル  キラメキ あ☆うん ミョウオウ†ソレッラ

テーマ   挑む萌。

主人公   皇海武穂(168*55*17*斎藤千和)/楠葉(143*30*13*釘宮理恵)スカイ タケホ/クスハ姉妹
        注)カッコ内は身長*体重*年齢*CV

ラスボス  宇津陀支喃/ウツダシノウ

四天王   波璽摩多/ハジマタ 嗚倭多/オワタ 我羅多/ワラタ 鈷那多/コナタ

概要    寺の跡取りである武穂楠葉姉妹は、ある日境内で首を断ち切られた鶏の死骸を見つける。
      其れは殿能生爾(デンノウニ)次元より宇津陀支喃を召喚せしめる儀式の残骸であった。
      人類総欝化を企む宇津陀支喃を打破すべく、皇海姉妹は地蔵菩薩の力を借り、
      持明者(ソルダート)に変身して戦うのである。

持明者   ミョウオウ†オンブラ TYPE:A/武穂 (205*98*45*若本規夫)
(変身後)  ミョウオウ†キアリタ TYPE:UN/楠葉 (198*90*40*郷里大輔)
      注)カッコ内は身長*体重*年齢*CV

雄叫び   オンブラ 「フゥゥゥゥグトゥァァァァァクゥゥンンンンンンン!!!!」
(決め台詞) キアリタ 「エダズィィィマヘィハティドゥェアァァァァルァァァァ!!!!」



「うん。何これ」
「はい! 児童向けであるにも関わらず大きいお兄さんや腐ったお姉さん達に占拠され、剰え萌萌ほざかれている現状を憂え、番組を子供達の手に取り戻すとともに、将来を担う彼等に萌えではなく燃え魂を植え付けるべく起死回生のイメージチェンジを狙い」
「回生の前に死ぬと思う」



************
私もそう思う。何つうかスイマセン。


82:24h

峠の途中に、コンビニらしき店舗が見えた。
こんな所にあっただろうかと、私は車を寄せる。知らない店名だった。
真夜中のコンビニは酷く冷え切っており、剥き出しの腕にふつふつと鳥肌が立つ。店内では大学生と思しき青年が一人、商品棚を整理していた。墨を垂らしたような黒い髪をしている。
君、と私は声を掛ける。
「はい、何でしょう」
彼がこちらを向いた刹那、私は寒気を覚えた。彼はこれと云った特徴のない至って普通の青年であったが、私は何故か彼に恐怖した。どうしました、と彼が笑う。
「あ、いや。君、寒くはないか」
「いいえ――お客様は、寒そうですね」
私は顫えている。
「温度を、上げてきましょう」
「申し訳ない」
彼が奥へ消え、私は腕を擦りながら商品に眼を遣る。特に必要な物があった訳ではない。何となく寄ってみただけだ。時間稼ぎをしたかったのかも知れない。
少しずつ店内が暖まり始め、私は細く長い息を吐いた。無意識に目の前のライターを手に取る。
「練炭もご入用ですか」
唐突に声を掛けられ、滑稽な程驚いた。
「何だって?」
「練炭も、ご入用ですか」
彼はとても人の良さそうな顔でころころと笑っている。
「それとも、ロープの方がよろしいですか」
「何を言ってるんだ、君は」
「良いロープが御座いますよ。ナイフも、各種取り揃えておりますが」
「君」
厭な汗がシャツに染みを作る。彼の声は滴る血にも似て、ぼとぼとと床に溜まってゆく。
「死ぬおつもりなのでしょう?」
衝撃で咽喉が詰まる。何故、と声にならない声で呟く。
「ここはそう云う店ですから。お客様のような方ばかりがご来店なさいます」
「私のような……」
「大方、一発逆転狙いの一念発起でデリバリーピザ辺りに手を出し、借金塗れ。そんな処でしょう。近頃、増えましたね」
彼の云う通りだった。私は一歩退き、背後の商品棚を揺らす。
「よろしければ、鉈、などもご用意させて頂いておりますが?」
「鉈……?」
「ああ、すみません。銃火器の類は流石に御座いません」
「いや、いや君」
「刃物ですと、大振りの物がお勧めですよ。何人、連れて逝くおつもりですか?」
彼は朗らかな笑みを絶やさない。声を聞きさえしなければ感じの良い好青年にしか見えない。其れが一層怖かった。
「一人、私一人だ」
「そうですか。良い心がけですが、残されたお子様方の身の振り方はお考えですか? 別れた奥様? 或いは年老いたお母様?」
「何故、君、君は」
「見れば解ります。それにしても、お子様方はショックでしょうね。まず母に捨てられ、次いで父にまで捨てられるのですから。お幾つかまでは存じませんが、お客様から察するにきっと多感な頃でしょう。受ける傷の深さは計り知れません。今頃、酷く心配なさっているに違いありませんよ。いっそ、連れて逝って差し上げた方が良いのではないですか」
さあ、と彼は一台の携帯電話を差し出した。私の携帯電話だった。
「君は、一体」
「僕は」
ぬるり、と彼の眼が光る。
「只のアルバイトですよ」
「莫迦な」
信じられる訳がない。恐怖と疑惑で見遣った彼の制服には、「さなだ」と書かれたプレートがあった。
「さあ、どうぞ。連絡、なさらないんですか」
私は携帯電話を引っ手繰る。
「お子様に言伝は残して来ましたか? もしかしたら、心配した上のお嬢様から電話があるかも知れませんね」
彼が携帯電話を指差した途端、娘からの着信があった。彼は笑っている。私は顫えながら電話に出た。
「わ、私だ」
お父さん? と娘の不安げな声が聞こえる。
――今どこ? いつ帰って来るの?
彼の掌が肩に置かれる。温かい掌だった。
「鉈、がお勧めです。後ろから首を、一撃で。それが一番、苦痛も恐怖もありません」
――お父さん?
私は彼の手を振り払い、店から逃げ出した。背後で彼が柔らかに云う。
「有難う御座いました。又、いつでもお越し下さい」
すぐ帰ると娘に伝え、車を発進させる。後ろから彼の声が追ってくるような気がした。
当店は二十四時間、いつでもお客様をお待ちしております。



**************
うん、何だコレ。どんどんお題に副わなくなってきてるような。



83:青年と老人

「そりゃアナタ、とっても良い人でしたよ。いつお会いしても爽やかな笑みで挨拶してくれましてね、ゲルンハルトさんの所にだって毎日通って、スープやらパンやら差し入れてたんですのよ。優しくなくては出来ない事ですわ」(老ケレス夫人)

「ゲルンハルトさんも可愛がっておりましたな。可愛くない筈がありませんな。実の孫ですらあんなに足繁く通ってはくれますまいて」(クラウス老)

「まるで本当の祖父と孫みたいでしたよ。気が合ったんでしょうね、いつも楽しそうでしたから」(シサスク家使用人)

「ゲルンハルトさんも、恐縮するリューテルさんにパイやらシードルやら持たせてあげてらして、それはもう嬉しそうでらしたわ」(ケレス夫人)

「リューテルさん、この春にお母様を亡くしてらっしゃるんです。ゲルンハルトさんも同じ時期に奥様に先立たれて。お二人ともたった一人のお身内でしたし、通ずる何かがあったのかも知れませんね」(ヤルヴィ夫人)

「リューテルの坊やかい。頑張る子だったね。母さんを助けて小さい頃から良く働いてね。只、ちょっとばかし思い込みの強い子ではあったね」(霙鹿亭女主人)

「ゲルンハルトの爺さんも、まあ、気の毒っちゃ気の毒なんでしょうがね、私の家はガキの頃あの爺さんに泣かされてるんでね。リューテルさんは不憫でなりませんがね」(クイク家次兄)

「お二人同時に中毒死なさるなんて、きっと神の慈悲なのでしょう。お二人には血よりも濃い絆があったに違いありません」(ゼーベック神父)



オットー・リューテル、殺鼠剤の経口摂取により死亡。
ヴォルフガング・ゲルンハルト、シアン化合物の経口摂取により死亡。
ゲルンハルト宅より開封済みの殺鼠剤を見つけるも邸内外に使用した痕跡は認められず。
リューテル宅より母親の死に関してゲルンハルトへの疑惑を綴ったメモを押収。
両家のゴミ箱より食料が捨てられているのを発見。量から見て数日分と思われる。其々に毒物反応有り。
(タムサーレ警部補覚書)



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手抜きに見えますが、結構調べてます。……もう厭だ。



84:欲しい!

欲しい物。
庭のある小さな家と、大きな犬。

欲しい物。
優しい伴侶と可愛い子供。

欲しい物。
少しだけ意地悪な先輩と慕ってくれる後輩。

欲しい物。
わくわくするようなサークルとどきどきするようなアルバイト。

欲しい物。
ざっくばらんな親友とおっとりした親友。

欲しい物。
有名デザイナーがデザインした制服と馬鹿馬鹿しい程の喧騒。

欲しい物。
甘いパフュームと銀のピアス。

欲しい物。
青い空の下を駆ける為の力強い脚と誰かを抱き締める為の柔らかな腕。

欲しい物。
慟哭出来るだけの胸と大笑出来るだけのお腹。

欲しい物。
奇麗な長い髪と艶やかな肌。

欲しい物。
黒い瞳と紅い唇。

欲しい物。
明日。



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意味解りませんかそうですかホンマスンマセン。



85:ところで

お父さんはお母さんを殺した。
私が学校から帰ると、廊下にお父さんの背中があった。尻餅を付いたお母さんの見開いた眼と、眼が合った。恐怖が滲んで、血走った眼だった。お父さんは腕を振り上げた。手斧が握られていた。お母さんはやめてと口を動かした。声は出ていなかった。お母さんの顳に手斧がめり込む。ごしゃりと音がしてお母さんは壊れた。赤い血と、何だか解らないモノに塗れて痙攣するお母さんを跨いで、お父さんは奥へと歩いて行った。私は後を追った。
お父さんがオカシクなったのは最近だ。詳しくは誰も教えてくれない。だけど、会社で何かがあったらしい事ぐらいは解る。少し前、お父さんは酷く酔って帰って来て、喚きながら色ンな物を破壊した。障子を破って、箪笥を倒して、卓袱台を庭に放り投げた。私と妹達は怯えて押入れに隠れた。お母さんはうろたえながら、お父さんを宥めていた。
その日からお父さんは外に出なくなった。日に日にオカシクなっていった。
お父さんはずんずん廊下を進む。赤い手斧を握って進む。先には私達の部屋がある。私は背中が顫えて立ち止まる。お父さんは襖を開けた。
昔のお父さんは優しかった。良く遊んでくれたし、何より普通だった。
私はお父さんと遊ぶのが好きだった。私達は丘の上にある公園でいつも遊んでいた。公園には大きな木があって、その木の傍で私達はフリスビーやキャッチボールやバドミントンをやった。妹達は縄跳びをしていて、お母さんは木に凭れて微笑んでいた。お昼にはお母さんのお弁当を皆で食べた。普段とは違う甘い卵焼きが嬉しくて、妹達と争って食べた。食べ終わると妹達とお母さんは眠ってしまう。私とお父さんは三人を見て、幸せそうだねと笑った。お母さんはもう甘い卵焼きを作らない。
私は部屋に足を踏み入れた。
お父さんは下の妹を殺していた。
真っ赤に染まったお父さんが真っ赤な手斧を振り下ろしている。下の妹は真っ黒な眼をして死んでいった。躰から離れた妹の首は、畳の上を転がって上の妹にぶつかった。上の妹は断ち切られた腹部からでろでろとした物をいっぱい食み出させて死んでいた。頭部を失った首から吹き出した鮮血がばらばらと畳を打った。
お父さんは家族を殺した。
だから私はお父さんを殺した。
とても簡単だった。
お父さんは後ろを全く気にしていなかった。私が帰った事に気付いていなかった。私は授業で使った小刀を後ろからお父さんの首に突き立て、力一杯引いた。皮膚や腱や血管の切れる音がして、檻から逃げ出す猫のように血が噴出した。お父さんは虚ろな顔で死んだ。
私は小刀を握った侭で靴を履く。捨ててしまいたかったけれど、指が強張って開かない。足を使って引き戸を開け、私は走る。誰にも見られないように。誰にも止められないように。私は丘を目指して走る。
お母さんとお父さんと妹達。家の中は血塗れで、三人とも殺された。私は一人で走っている。楽しかった日を思い出す。お母さんとお父さんと妹達。一緒がいい。一緒で、楽しくて、お弁当がいい。私は笑った。声を上げて笑った。お母さんとお父さんと妹達。一緒にお弁当を食べよう。あの、大きな木のところで。



***************
無理矢理にも程がある。



86:執事が一匹

眠れぬ夜は執事を数えましょう。

執事が一匹。
「お帰りなさいませ。お茶の用意が整っております」

執事が二匹。
「インドから良い葉が手に入りましたので、今日はアッサムに致しましょう」

執事が三匹。
「タイが曲がっておいでですよ」

執事が四匹。
「じっとなさって下さい。子供じゃないんですから」

執事が五匹。
「大分とお疲れのようですね。マッサージなどいかがです?」

執事が六匹。
「さぁ、御御足をこちらへ」

執事が七匹。
「スコーンとマフィン、どちが宜しゅう御座いますか」

執事が八匹。
「畏まりました。直ちに米菓を焼いて参ります」

執事が九匹。
「お夕食はどうなさいますか。好き嫌いは許しませんよ」

執事が十匹。
「納豆は五百回程掻き混ぜて御座います」

執事が十五匹。
「無聊なら光(ルチア)でも集めておいでなさい」

執事が三十匹。
「ちゃんと肩まで浸かるんですよ」

執事が五十匹。
「頭をこちらへ。洗って差し上げます」

執事が七十五匹。
「雫が垂れてますよ。全く、髪もまともに拭けないだなんて」

執事が百三匹。
「どうなさいました。ああ、雛鳥ですね。落ちてしまったのでしょう。巣に帰してあげなくてはね」

執事が百十八匹。
「執事たる者、空ぐらい跳べなくてどうします」

執事が二百三十六匹。
「御髪(おぐし)を。折角の奇麗な髪なのですから、お手入れぐらいなさい」

執事が七百七十七匹。
「全ては滞りなく。心配は専用心配係の私に任せて、貴方はゆっくり休んでおいでなさい」

執事が三千八百十二匹。
「主従を入れ替える? 其れは一興。どうぞ遠慮なく私の事は執事様とお呼び下さい」

執事が三千八百十三匹。
「私はお気に入りとでもお呼びしましょうか」

執事が九千五百八十四匹。
「ええ、勿論。眠れる迄お傍におります」

執事が一万飛んで二十九匹。
「何を驚いておいでです? 神出鬼没は執事の嗜みですよ」

執事が二万七千六百四十一匹。
「仰せの侭に。お望みとあらば全て叶えましょう。私は貴方の執事DEATH★から」

執事が三万飛んで三匹。
「お起きになって下さい。刻限ですよ。ひっぺがされたくなかったら、さあ」

眠れてないけど満足だ。



**************
手抜きに見えますが、思いのほかウィキペディア始め諸サイトさんのお世話になってます。



87:なく

紅葉さんは泣かない人だった。
エイチさんが決死の覚悟で渾身の想いをぶつけても、大学進学で物理的な距離が出来ても、エイチさんの浮気疑惑が持ち上がっても、擦れ違い続けても、飼い犬が天寿を全うしても、エイチさんが事故に遭っても、三ヶ月ぶりに其の頬に触れても、紅葉さんは泣かない人だった。泣かない人だと思っていた。
思っていたのだけれど、二十歳を少し過ぎた頃、エイチさんは気付いてしまった。
紅葉さんは隠れて泣いている。誰にも知られず、ひっそりと泣いている。
何故、とエイチさんは思った。あまりに高すぎる矜持の所為だろうか、自分の前で泣くのも厭なのだろうか、自分の前ですら泣けないのだろうか、そう思って哀しくなった。
だから、エイチさんは土下座した。
エイチさんの酷く緊迫した土下座に、紅葉さんは面食らっていた。エイチさんは額を床に打ちつけ、これから先のどんな願いも望みも無視してくれていい、でも、だから、これだけは聞いて欲しい、と云った。
「お願いです。もう一人で泣かないで下さい」

其の日、エイチさんは初めて紅葉さんの涙を見た。



***********
ハハハ、ダマレ。いい加減薀蓄の事思い出以下略。
関連お題・・004:紅葉 009:冬 015:めでたい 020:不安解消法 027:なんやそれ!!? 031:イチゴミルク 033:メグミ 039:楽しみ 052:小悪魔 055:コイ 064:懺悔 
多いな……。こいつら書き易くて困る。



88:惑星

そりゃ、まあ、回ってる訳です。こう、ぐるぐるぐるぐると、幾千幾億なんて云う気の遠くなる星霜を回り続けてる訳です。
惑星ですから、回らぬ訳にはいかんのです。我々のキモチなんて関係ありません。恒星に捕らえられたが最後、只管ぐるぐるです。もうやめたいなと思っても、あー逆に回りてぇと願っても、ちょっと緩急つけてみようと頑張ってみても、我々にはどうする事もできんのです。公転軌道の上を来る日も来る日も回るのです。
私なんかは一番外側にいますから、他の方々に比べれば影響は薄いですが、其れでも恒星の呪縛から逃れられません。
ああ、まあ、確かに、私が安定してられるのは恒星のお陰ではありますよ。奴(やっこ)さんに引っ張って貰わなけりゃ私は宇宙の只中へ物凄い速度で飛び出してって、其の侭宇宙が朽ちるまで漂うか、ゴミと衝突して砕け散るかですけど、しかしね、だからと言って運命まで共にしたくはないです。
見て下さい、あれ。赤色巨星。もうね、近くの惑星二つ三つは呑まれてますよ。呑まれなかった星は吹き飛ばされてるんじゃないですかね。吹き飛ばされて軌道が変わっても矢ッ張り回ってるんです。離れられんのです。
奴さんもいっそ爆発してくれりゃいいのに、そんな質量ありはせんのです。徐々に萎んでいって白色矮星になって、其れでも尚我々を縛り続ける。我々はね、緩んでゆく、けれど解けない呪縛の中で、奴さんと一緒に少しずつ冷えていくんです。



*************
まんま惑星。捻りも糞もねえ。



89:夜更けのヤンキー

其の男とは毎朝擦れ違う。
ウィンドブレーカーのフードを目深に被り、ストイックに砂の上を走っている。時折、拳を虚空に放っているからボクサーなのだろうと思う。プロかも知れない。
拳の空を切る音が奇麗で、タイチは男が見えるといつも耳を澄ませた。波と拳と、夜が明ける音を聞きながら、タイチは砂浜を歩く。
三ヶ月前に祖父が他界してから、日課になった。祖父だけがタイチの味方だった。小学生の頃から正しく非行に励み、近所のみならず家族からも疎ましがられるタイチに、祖父だけは昔と変わらぬ柔らかさで接してくれた。タイチタイチと呼びつけられては拾った漂着物をよく見せられた。
早朝がいいんだ、と祖父は云う。夜に流れ着いた物を、誰かが来ない内に拾うんだ。ゴミやガラクタばかりに見えるかも知れんが、これが結構面白い。骨や歯や外国の日常品、軍の支給品、アーティスティックな神仏像。何かしらの儀式を匂わせる鏡に、呪われてそうな装飾品。浪漫だよな。うんうん、と一人で頷いていた。
祖父はやけに神妙な顔でこれ貰ってくれ、と愛用の火鋏をタイチに押し付けた次の日に死んだ。
大して興味があった訳ではない。只何となく、早朝の浜辺を歩いてみた。最初は火鋏だけを持っていたのだけれど、次第にゴミ袋を引き摺るようになった。
着古したジャージに健康サンダルを突っ掛け、日中はリーゼントに固めている前髪を、早朝で面倒な為だらしなく垂らしてタイチは歩く。歩きながら眼についた物を片っ端からゴミ袋に詰め込む。ゴミも漂着物も全部一緒にして引き摺って歩いた。時々、どこに浪漫があるんだよと吐き捨てる。
遠くから澄んだ音がして、タイチはそちらに眼を遣る。いつもの男はいつもとは違う雰囲気を纏って走っていた。
擦れ違いざまに男から鬼気迫る何かを嗅ぎ取り、タイチは振り向く。男の背中を初めて見た。
拾った漂着物をゴミ捨て場に放り投げ、ふらふらと駅前まで歩いたタイチは男の気魄の理由を知った。駅前に貼られたボクシング試合を告知するポスターに、ファイティングポーズの男が居た。ああ、プロだったんだと、タイチはぼんやり思う。
やっぱり大して興味があった訳ではないけれど、これまた何となくタイチは試合会場へ足を運んだ。
男は無残で無様に容赦なくやられていた。
試合から三日ほど、男とは擦れ違わなかった。

四日ぶりに擦れ違った時、男は痣の残る顔でぎこちなく微笑み、タイチに会釈した。タイチは思わず笑い返し、頭を下げた。釣られてしまった自分が気恥ずかしくてザケンナヨと呟き、タイチは拾った吸殻をゴミ袋に投げ込んだ。



**************
漂着物拾いて火鋏でやるモンなのか?



90:なし

鋭利な繊月が裂傷のように浮いている静かな夜であった。
月の音だけが降る夜空(よるぞら)の中を飛ぶが如くに走る者がある。黒装束の其の少女は甍の上を音も無く駆けた。追っ手の気配が幽かにある。目指す屋敷は近かったが少女は進路を変えた。

さす、と音がして男は写経の手を止め、背後に眼を遣る。黒の着流しを着た老爺が畏まっていた。
「雲井か。如何した」
「畏れながら愛宕の様方に申し上げます。彩玉が戻りませぬ。南水、新水兄弟に探させてはおりますが、恐らくは稲城の手の内かと」
「命じた覚えはないがな」
「自らの判断に御座りましょう。彩玉は何かを掴んだ様子だと菊水が申しておりました故」
「功を焦ったか」
「否。彩玉が欲したのは功ではありますまい」
「私の情を欲したが為とでもぬかすつもりか」
黙り込んだ雲井を男は凝視する。
「捨て置け」
「愛宕の様方」
「身勝手に動き陣を乱す駒など要らぬ」
「何とご無体な」
彩玉は、と雲井が腰を上げると同時、盛大な音を立てて襖が開いた。襖の向こうでは襦袢を着崩した大柄な男が仁王立ちしている。
「愛宕の」
「何用だ、多摩」
「彩玉が見つかった」
「そうか」
「今、南水新水が連れて来る」
寸分違わぬ形(なり)をした少年が二人、戸板を男の前に恭しく置いた。戸板に寝かされた少女は血に塗れ、死に瀕しながらも微笑んだ。南水、と男が名を呼ぶ。は、と右に控えた少年が応える。
「関所近くの河原に捨て置かれておりました」
「稲城か」
「間違いないかと」
男は少女を見る。少女は赤黒い痕の残る細い咽喉を震わせ、鳴いた。
「愛宕、の、様方」
コレを、と少女は二、三度痙攣し、目玉程の水晶で出来た鈴を吐き出した。
「七秘宝の一つ、あきづき、この彩玉、稲城より、取り戻して、参り、ました」
褒めて、下さいまし。少女の腫れた眼から、一粒、涙が転がる。
「良くやった彩玉」
「あい」
満足げに笑い、少女は絶えた。少女の血と胃液に濡れた鈴が、しゃらりと鳴った。



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はぁ? てなる気持ちは良く解りますが、まあ聞いて下さい。全部梨の品種名なんです。あきづきも。
…………すいませんホンマすいません。






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