梅好さんは何故か庭にある梅の木がお気に入りだった。
家に来た其の日に、梅好さんは梅を気に入ったらしかった。
中に入れようとしたら小さな爪を出して、仔猫特有の細く甘い声で抗議した。
少し困った私達は好きにさせる事にした。梅好さんは梅の根元で心地よさげに眠った。
よっぽど梅が好きなんだね、と祖母が言った。それが梅好さんの名前になった。
十二年前の話。
梅好さんは今でも梅を気に入っている。気候の良い日には根元で丸くなっているし、雨の日は縁側から眺めている。若い頃のように軽やかにではないけれど、枝にも登る。
梅好さんは本当にあの梅が好きなんだね、と祖母が梅好さんの背を撫でて言う。梅好さんは欠伸で返す。婆ちゃんね、と祖母は梅好さんを膝に乗せた。梅好さんは雨に烟る梅を見る。
婆ちゃんね、夢を見たんだ。梅好さんは人間で、梅の木も人間で、二人は禁忌を犯すんだ。決して犯してはならぬ罪を。その罰で猫と梅にされたんだ。
何と、と私は思った。何と少女ティックで普遍的で王道なネタか、と。私は堪らず口を挟んだ。
「婆ちゃん、其処は天使と悪魔にすべきだ。関係は対立であるべきだ」
おお、と祖母は手を打った。梅好さんは我関せずで梅を見ている。梅は雨に濡れている。
結局の所、梅好さんが梅の木を好む理由を知りようはないのだから祖母のネタも強ち無いとは言い切れないのではないか、と思ってしまう辺り祖母から受け継がれる濃厚な血脈を感じなくもない。
************* 梅関係ない気がしますが、きっと気の所為です。
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