遠。91-00


91:家出
家出している。理由は別にない。強いて云うなら、そんな年頃なだけ。
ついでに云うなら兄貴がキモイだけ。
「何で? アンタの兄貴男前じゃん。90年代な」
「それがキモイんだって。古いし」
幼馴染のベッドに寝転がって、先月発売された雑誌を読む。
「古クサイ趣味な癖に」
「渋好みって云え。90年は古いだけで渋くない」
そんなモンかね、と友達はWiiリモコンを振った。
「でー、アンタいつ帰んの。ウチはいつまで居てくれてもいいけどさ、そろそろ帰んな」
母ちゃん心配するっしょ。大型のテレビ画面ではキャラクタの少女が亡霊だか怨霊だかに纏わり憑かれている。
「んだねー」
「気のねぇ返事。家出して何ヶ月よ」
「四ヶ月ぐらい?」
「ウチ来るまで何処行ってたん」
「カラオケとかネカフェとか漫喫とか、ガッコの友達ンとこ一日おきとか」
「男が出てこない辺り、安心より哀愁が先立つね」
「友達、男かも知れんしょ」
「男違うしょ」
「違うけど」
違うんじゃん、と幼馴染は笑った。
「まーいーけどさ、早めに帰んな。んで、ちょっとしたらまたウチ来な。遊びに」
「そだねー」
帰ろうか、と何度も考えていた。その度に帰り損ねた。原因は特にない。今度こそ帰ろうかと思った矢先、携帯電話から「三匹が斬る!」のテーマが流れ出た。幼馴染は三匹って、と揶揄したが、解る幼馴染も幼馴染だと思う。
着信したメールを開き、暫し固まる。
件名、妹へ。
ぉにぃちゃんゎサークル仲間ヵらボコボコにされましたoナグサメに帰って来なさい。ママンも心配してるぞ(ハート

「誰?」
「兄貴。悪い、もう暫く泊まるわ」



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90年にケンカ売ってる訳じゃねえです。
関連お題・・078:ペット



92:梅

梅好さんは何故か庭にある梅の木がお気に入りだった。
家に来た其の日に、梅好さんは梅を気に入ったらしかった。
中に入れようとしたら小さな爪を出して、仔猫特有の細く甘い声で抗議した。
少し困った私達は好きにさせる事にした。梅好さんは梅の根元で心地よさげに眠った。
よっぽど梅が好きなんだね、と祖母が言った。それが梅好さんの名前になった。
十二年前の話。
梅好さんは今でも梅を気に入っている。気候の良い日には根元で丸くなっているし、雨の日は縁側から眺めている。若い頃のように軽やかにではないけれど、枝にも登る。
梅好さんは本当にあの梅が好きなんだね、と祖母が梅好さんの背を撫でて言う。梅好さんは欠伸で返す。婆ちゃんね、と祖母は梅好さんを膝に乗せた。梅好さんは雨に烟る梅を見る。
婆ちゃんね、夢を見たんだ。梅好さんは人間で、梅の木も人間で、二人は禁忌を犯すんだ。決して犯してはならぬ罪を。その罰で猫と梅にされたんだ。
何と、と私は思った。何と少女ティックで普遍的で王道なネタか、と。私は堪らず口を挟んだ。
「婆ちゃん、其処は天使と悪魔にすべきだ。関係は対立であるべきだ」
おお、と祖母は手を打った。梅好さんは我関せずで梅を見ている。梅は雨に濡れている。
結局の所、梅好さんが梅の木を好む理由を知りようはないのだから祖母のネタも強ち無いとは言い切れないのではないか、と思ってしまう辺り祖母から受け継がれる濃厚な血脈を感じなくもない。



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梅関係ない気がしますが、きっと気の所為です。



93:なる

なにもかもが 
るつぼのうちで 
なげきにむせび 
るいじゃくな
なみだをこぼす 
るいえんふかく
ながれゆき
るろされしゆめは
なへんにきゆるか
るいらんのせかいで
なにをおもうか
るいせいのおもいは
なにをねがうか
るいこんむなしく
なぶられゆく
るいせつのいのちよ



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左端。ゲシュタルト崩壊起こしかけました。



94:スパイダー

特撮番組を見ていたら、突然母に声を掛けられた。
「なあ、スパイダーて何と戦ってるん?」
「は? いや、何の話?」
「あんた、そういうの好きやんか。ええ歳して変身モンばっかり見てるやないの」
「特撮は好きやけど、おかん、何言うとん?」
「せやから、スパイダーの話や。大概何かと戦ってるやないの。怪人とか怪獣とかファンガイアとか」
「何でファンガイアだけ具体的やねん。つか、おかん」
「変身前は線の細い男前が増えたなぁ、最近。スパイダーもそうなん?」
「最近でもないと思うけど。おかん、スパイダーて蜘蛛や」
「何やて?」
「やから、蜘蛛」
母は爆発するように笑い、
「何や、お母さんまたキカイダーの親戚か何かかと思たわ」
と去って行った。
いや、キカイダーて。



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スパイダーマンの事は何やと思っとったんや。



95:幻痛

夜明け前、拳の音が聞こえなくなって二ヶ月が経つ。
タイチは祖父から譲り受けた火鋏で花火の残骸を拾いながら、耳を澄ませた。空を切る奇麗な音はしない。
毎朝毎朝、飽きもせず黙々と走っていたプロボクサーの男。一度だけ試合を見た事がある。実に立派に負けていた。タイチが惰眠を貪っている雨の朝も、男は浜を走っていたのだろうと思う。
タイチは屈み込み、湿りを帯びた砂を少し掘った。中から飴色に照る仏像が姿を現す。砂を丁寧に払い、ゴミ袋とは別に持った布袋へ放り込む。
あの男はどうしただろうかと考え、タイチは顔を顰めた。誰かを気にする自分を持て余していた。
もう一度試合を見に行ってみようか。ジムは何処だったろうか。誰かに聞こうか。答えてくれるだろうか。
「クソ」
小さく吐き捨てて拉(ひしゃ)げたバケツを蹴る。バケツと一緒に便所サンダルが飛んだ。もう一度クソと呟いて便所サンダルを追う。タイチが拾うより早く誰かの腕がサンダルに伸びた。いつもの男だった。久方に会った男は、右腕を失くしていた。
「アンタ」
思わず声が出る。男は哀しげに笑んでお早うと云った。
「お、おはよ」
「久しぶり、てのもちょっと変かな」
「いや、別に」
最初、と男がサンダルを差し出す。タイチは口中でもごもごと礼を述べ、サンダルを受け取る。
「最初、君を見た時、変なのがいると思った」
「ああ、うん」
「火鋏持って夜明け前に砂浜歩いてるヤンキーみたいな少年」
「ああ、まあ、変だよな」
「絡まれたら困るなと思った」
「絡まねえよ」
「うん、絡まれなかったな。絡まれなかったし、ゴミを拾ってるのを見た」
「別に、ゴミ拾ってる訳じゃ」
拾ってるじゃないか、と男はゴミ袋を左手で差した。
「これは、何つうか、ジイちゃんが」
「うん?」
「漂着物を」
「ああ、なる程。まあ、何にしろ俺は君と擦れ違うのを結構楽しみにしててね」
「楽しみ?」
「そう。早朝にゴミ拾いしてるヤンキー、何か和むなあと思って」
「だから、ゴミじゃ」
「うん。でも、結果的にはゴミ、拾ってるし」
「しかも和むって」
「和むよ。朝の走り込みも減量も辛いから、少し癒されてた」
「好きでやってんじゃねえの?」
「好きでやってるね。それでも、辛いから」
そう云って男は下を向いた。沈黙が重くてタイチは口を開く。
「俺、試合見た事あるよ。一度だけ、アンタの」
負けてたけど。
「うん。弱いからね、俺」
「ああ、いや」
「好きだけど弱い。弱いから辛い。好きなのに辛い。向いてなかったんだ」
タイチは何と応えてよいか解らず、視線を泳がせた。
「それで」
「それで?」
「和ませてくれてた君に、せめて別れの挨拶がしたくて」
タイチは男を見る。男は変わらず哀しげに笑んでいる。
「もう、走らねえの?」
「走らない。故郷(くに)に帰ろうと思ってる」
「ボクシングは?」
男は右腕の残った部分を左右に振った。
「出来ない」
「いや、でも、片腕でも」
いいんだ、と今度は首を振った。
「丁度、良かったんだ。何やっても勝てなかったし、どんなに頑張っても弱かったし、事故だったけど、いい契機(きっかけ)だったんだよ」
男の顔が歪む。男は必死で笑みを保とうとしていた。タイチは少しだけ逡巡して、俺と云った。
「俺、アンタの音好きだった」
「音?」
「拳の」
ありがとう、と男は掠れた声で呟いて泣いた。
「ゴメン。右腕が、痛くて」
タイチは男が泣き止む迄、只其処に居た。



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キャラに名前付いたら使い回す。



96:足りない

洗面所から、ほそほそほそ、と気味の悪い音がする。近付いてみれば男の声のようである。良く聞けば何故だと呟き続けている。何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ。私は恐怖を押し殺し、ドアの隙間から中を見た。洗面台の前で兄が蹲って頭を抱えていた。何故だ何故だ何故なんだ。
「兄貴」
呼び掛けると兄は虚ろな眼で私を暫し凝視め、物凄い速さで這って来た。兄が私の腕を掴む。
「何故だ。何故なんだ」
「兄貴、一体どうした」
私は少し怯えて問う。兄は、何故、と唇を噛み締めた。兄の爪が私の肉に食い込む。
「何故、俺だけ髪が薄いんだ、何が足りないんだ、否、足りないのは髪だ、髪が足りないんだ」
兄は半泣きであった。
「何だ、何を足せばいいんだ、ワカメか? もずくか? めかぶか? 刺激か? 処女の生き血か?」
「毛根じゃね?」
兄は泣いた。



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スンマセン。



97:トリ

取り乱した慟哭
慟哭する世界
世界に満ちる嘆きは
際に寄り添う
創生の古に
エニグマを刻み付け
付け上がる命と
千歳に眠る神に
醜いまでの望み持ち
望月の夜に撃ち砕かん



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シリトリ。スンマセン許して下さい。



98:変態と浪漫

変態と浪漫が会合を開いていた。
双方、五つずつが代表として出席している。オブザーバーとしてシュールも居た。
議題はどちらが行為として優れているか。
浪漫側が言う。
「どう考えても我々浪漫でしょう。わたくし、満天の星の下で君の瞳に乾杯(以下満天)ですが、実に素晴らしい行為だと思いませんか。愛があるし夢もある」
いやぁ、と変態側が変態的に笑った。
「馬鹿なだけだと思うよ、それ。何か気持ち悪いもん。俺、真夜中誰もいない道を真っ裸で散歩(以下散歩)、だけど、こっちのがいいよ。本能に忠実で」
「それこそ気持ち悪いです。何ですか真っ裸って。獣じゃあるまいし。私のような、放課後の図書室無言の邂逅(以下図書)、なんか実に素敵でしょう? 甘酸っぱい青春でしょう?」
「酸味利きすぎだろ。アンタさ、獣バカにしたけど、獣いいよ。オレ、獣に舐めさせた時の背徳感(以下獣)。もうさ、哲学だよねオレ」
「貴方みたいな方に背徳を語られたくありませんわ。あたくし、対立関係の二人は恋仲(以下恋仲)ですけれど、背徳と云うのはあたくしみたいなのを云うのですわ」
「君の何処が背徳? 背徳は僕、女装少年は至高(以下女装)、だよ。背徳だし哲学」
「あの、背徳は今あんまり関係ないと思います。あ、わたし、宝剣と共に七つの世界を巡る(以下世界)です」
「世界ちゃんの云う通りだわね。今、背徳は関係ないの。大事なのはいかに優れているか。まさにアタシの為にあるような議題だわ。アタシ、陰毛で薄毛を隠す心意気(以下薄毛)よ」
「それで優れてると? それが優れてるなら、仲間の想いで巨大ロボに合体(以下ロボ)、な妾は最早神だね」
「優れてるわよ。合理的じゃない。あいつらそこら辺にわさわさ落ちてるんだから」
薄毛、下品が過ぎる、と変態が変態を窘めた。
「失礼した。仲間の無礼は拙の無礼。お詫び申し上げる。拙は、臭い物は兎に角嗅ぐ(以下異臭)と申す」
何だか、と満天が言った。
「皆さん、異質と言うか異端と言うか、世間から少し食み出てらっしゃる感じですね」
女装は浪漫側を指差し、何言ってんの、と返した。
「君達だって、結構外れてるんじゃない?」
「何を仰るかと思えば。あたくし達の何処が外れてると言うんですの」
「いやぁ、だって、やらねえもん。星空で乾杯とか。そもそも合体できねえし」
「あなた達と一緒にしないでください。わたくしは、やりたくても出来ない、そんな類の、言わば高貴ささえある行為なんです」
「俺も、やりたくても出来ない、そんな類よ?」
「獣もなー」
「だから、一緒にしないでくださらない? あたくし達には夢がありますの」
「アタシにもあるわよ夢。寧ろ夢しかないわよ」
いいよ、とロボが指を降る。
「アンタにも夢がある事にしておこう。でもアンタは夢しかない。妾達には熱がある。熱い想いが」
「どろどろの熱い想いなら僕持ってるけど」
「臭ってきそうなのは要りません」
「臭い物には冒険が潜んでおるぞ」
「あ、あ、あの、優れていると言う事は、普遍性や持続性があると言う事ではないでしょうか」
「だったら、矢張り私達の方ですね。いつの時代もロマンスは求められます」
「オレ達変態は千年の昔から立派に遍く存在してるけどね」
ふむ、と異臭が唸った。
「星空の下、真っ裸で君の瞳に乾杯したら、それは浪漫か、変態か」
「何を言うんです、瞳に乾杯したのなら其れは浪漫です」
「真っ裸なら、何やったって変態よ」
「真っ裸でも、瞳に乾杯は浪漫です」
「では、獣と人、相容れぬ彼等が恋仲になったら、それは浪漫か、変態か」
「浪漫ですわ。美し過ぎる浪漫ですわ。種を超えるなんて、浪漫がなければ叶いませんわ」
「でも、やってる事は変態だよね?」
「ならば、毎日図書室で会うあの人、でも声は掛けられない、何故なら僕は女装少年だから。これは」
「どういう設定よ、それ」
「禿頭の熱い想いで陰毛が合体したら」
「カツラが出来るわね」
白熱する議論を見ながらシュールは思った。
何だこれ。



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オチが付けられんかった。何たる失態。



99:あと少し

紅葉さんはあまり感情を表に出さない。
その為、エイチさんが一人で突っ走ってるように見えたりする。
実はそうでもない。
休日の朝、エイチさんは紅葉さんの髪に鼻を埋め、髪先を弄びながら、そろそろ起きようかと考える。
腹も減ったし、便所も行きたいし。よし、起きよう、と僅かに躰を浮かすと紅葉さんがエイチさんの服を掴み、猫のように頭をごりごりと胸元に押し付け、あと少しだけ、と云う。
エイチさんは仰せの侭にと応えて、迫上がる尿意と格闘する。



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ハイハイクソクソ。
関連お題・・87:なく



00:END

雷鳴。
黒雲が楕円に割れて、銀髪の男が現れる。
そんな、とシスター服を纏った幼女が声を上げた。
「この街には結界を張ったわ!」
銀髪の男はゆるゆると高度を下げ、教会の屋根に立つ。顔には厭な笑みが広がっている。
「お子様の張った結界に意味などあるまい」
揶揄され幼女は唇を噛む。貴様、と幼女を庇うように大剣を背負った若者が一歩前に出た。
「何をしに来た!」
「そんな口を利いて良いのかな。私はお前達にいい事を教えてやろうと思ってわざわざ出向いてきたのだがね」
「結構だ。お前に教えて貰う事など何もない」
「威勢だけはいいな、若造。私の機嫌が悪くならない内に土下座したまえ」
「断る!」
若者は剣を抜いた。
「本当に威勢だけはいい。今すぐ剣を仕舞え小僧。私は少し機嫌が悪くなった」
「貴様の機嫌など知った事か!」
「いいだろう。灰にしてくれる」
銀髪の男は掌に向け、何事かと呟いた。かつかつと、男の掌で光球が出来上がる。
全く、と若者の傍で胴間声が響いた。人と云うよりゴリラ寄り、否寧ろゴリラな男が後頭部を掻きもって若者の隣に並んだ。
「お前はすぐ熱くなる」
「済まない。性分なんだ」
「知ってるさ。ソコがお前の好い所だってな」
ゴリラは拳を固め、構えた。光球が飛んで来る。ゴリラが蹴散らす。
「恩に着る」
二発めの光球は若者が剣で散らした。銀髪の男が指を鳴らす。光球が空を覆うまでに分裂し、降り注いで来る。彼等の前に静に歩み出る者が居た。フード付きのマントを翻し、二足歩行の鰐が歌を奏でる。歌によって作られた障壁が彼等を囲い、光球を弾いた。
「ふん」
銀髪の男が鼻で哂う。
「少しはやるではないか」
「少しではない事を証明してやる。降りて来い!」
再びの雷鳴。銀髪は僅かに眉根を寄せた。
「申し訳ない。刻限だ。お楽しみの最中だが、私は帰らなくては。ああ、そうだ、折角だから矢張り教えてやろう。若造、お前の母親を殺したのは私だ。良い報せだったろう? 血眼になって探している仇があっさり見付かったのだから」
何だと、と若者は吼えた。
「貴様、貴様が母上を!!」
「おっと、私はこれで失礼するよ。では諸君、いずれまた」
銀髪は呵呵と嗤って黒雲へ消えた。
「待て! 貴様!!」
追おうとする若者の肩をゴリラが掴む。
「無駄だ。今は耐えろ。敵は解ったんだ、焦る必要はないさ」
「あ、ああ、そうだな」
若者は陰の気が漂う空へ剣を掲げた。
「俺達の闘いは始まったばかりだ」

THE END

ご清覧ありがとう御座いました。



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ソッコーでネタは割れるに違いない。



言い訳ですが、最後の方は一日に0個から5個ペースでした。ありがとう御座いました。






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